アジアの民間にひらかれた商業宇宙港「北海道スペースポート(以下、HOSPO)」を推進する北海道大樹町(北海道広尾郡大樹町、町長 黒川 豊)とSPACE COTAN株式会社(本社:北海道広尾郡大樹町、代表取締役社長 兼CEO 小田切義憲、以下SPACE COTAN)は、同町でロケット開発・製造を行うインターステラテクノロジズ株式会社(本社:北海道広尾郡⼤樹町、代表取締役社⻑:稲川貴⼤、以下インターステラテクノロジズ)がHOSPOにて小型人工衛星打上げロケット「ZERO」(以下ZERO)のエンジン「COSMOS(コスモス)」の燃焼器単体試験(以下本試験)に成功したことをお知らせいたします。本試験は、HOSPO内のサブオービタルロケット発射場「Launch Complex-0(LC-0)」のインターステラテクノロジズ社開発のエンジン燃焼試験設備にて行われました。
本試験では、家畜の牛ふんから製造された液化バイオメタン(Liquid Biomethane、以下LBM)をロケット燃料として初めて活用し、十分な性能を有していることが確認されました。バイオメタンによる燃焼試験実施を発表しているのは、欧州宇宙機関(ESA)が開発しているロケットエンジンに続きインターステラテクノロジズが世界2例目、民間ロケット会社としては初めてとなります。大樹町とSPACE COTANは、世界の宇宙ビジネスを支えるインフラとしてロケット開発環境を提供し、国内における自立的な宇宙アクセスの維持・拡大や、国内外の宇宙産業の発展に貢献してまいります。
《試験概要》
試験名称 :インターステラテクノロジズ社 ZEROエンジン「COSMOS」燃焼器単体試験
試験目的 :燃焼器の性能および耐久性の確認
推進剤 :液化バイオメタン(LBM)、液体酸素
期間 :2023年11月28日から2024年1月末まで(予定)
場所 :北海道スペースポート「Launch Complex-0」
燃焼時間 :10秒
本試験に関する詳細な情報は、インターステラテクノロジズ社のプレスリリースをご参照ください。
大樹町内の牛ふん由来の液化バイオメタンで、サステナブルな宇宙開発と地域課題解決を
大樹町の基盤産業の一つは酪農業であり、同町で飼育されている牛は約3万頭となります。それにより、牛のふん尿による臭気、水質汚染や処理は長年農業および地域の課題となっています。これらの課題解決にも繋がる革新的な方法として、現在エア・ウォーター北海道(北海道札幌市)は北海道十勝エリアを中心に牛のふん尿から発生するバイオガスを、LNG(液化天然ガス)の代替燃料となるLBMに加工し、域内で消費する地域循環型のサプライチェーン構築に取り組んでいます。2022年10月には、帯広市にLBMの製造工場を国内で初めて稼働させ、大樹町内等の牧場から収集した牛のふん尿由来のバイオガスからLBMを製造し、乳業工場、トラクター、船舶など地域のエネルギー源として活用する実証を進めてきました。今回、LBMがロケット燃料として初めて活用されましたが、このLBMはバイオガスの主成分であるメタンを分離・精製し、約-160℃で液化したもので、従来ロケット燃料に使用されるLNG由来の液化メタンと同等の純度(99%以上)となります。
液化メタンは価格、燃料としての性能、扱いやすさ、入手性、環境性などが総合的に優れた燃料として、SpaceX社(米国)の宇宙船「スターシップ」をはじめ、近年世界的に採用するロケット会社が増えています。国内でもインターステラテクノロジズの他に、JAXAの次世代ロケット、HOSPOでの打ち上げを希望するSPACE WALKERや将来宇宙輸送システム等の民間が液化メタンを燃料に採用しています。大樹町は2021年に、2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロの実現を目指す「ゼロカーボンシティ」を宣言し、地球環境に配慮した持続可能なまちづくりを推進しています。そのため、HOSPOにおいてもグリーンエネルギーで持続的に供給可能な燃料としてLBMの活用を推進し、サステナブルな宇宙開発を目指します。大樹町とSPACE COTANは、LBMをロケット燃料の他にも幅広い地域のエネルギー源として活用する検討を進めることにより、カーボンニュートラル、酪農業の課題解決、エネルギーの地産地消を目指してまいります。
《背景》政府支援により民間のロケット開発が加速。民間が使える宇宙港の必要性が高まる
世界の宇宙市場は、民間宇宙ビジネスの拡大や安全保障領域の重要性の高まり、衛星コンステレーションを活用した小型人工衛星のサービスの普及により、2040年には現在の3倍近い110兆円を超える巨大市場に成長すると予測されています。小型人工衛星の需要を受けて、衛星を宇宙に運ぶための宇宙輸送サービス(ロケット等)の需要も高まっていますが、宇宙輸送サービスは需要に対して不足しており業界のボトルネックとなっています。国内では、基幹ロケットの打上げ回数が年数回と少ないため(2022年度 日本での打上げ回数0回)、民間の商業衛星はSpace X等の海外ロケットに依存している現状です。そんな中、国内では2023年6月に閣議決定された宇宙基本計画(*1)に基づき、他国に依存することなく宇宙へのアクセス確保・自立的な宇宙活動の実現と、その具体的な政策として文部科学省による民間スタートアップを支援する制度「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3基金)(*2)」で宇宙輸送分野に5カ年・350億円の予算が配分され、1社最大140億円が交付されるなど、民間のロケット開発・実用化を支援する動きが始まりました。本制度で採択された4社のうち3社(インターステラテクノロジズ、SPACE WALKER、将来宇宙輸送システム)はHOSPOでの打上げを計画しており、民間が利用できるロケット発射場や実験場の必要性はさらに増しています。これらの背景を受け、HOSPOは民間が使える商業宇宙港として、約40年の宇宙のまちづくりの歴史と実績、東と南に開かれた地の利や広大な土地等の強みを活かし、様々なロケット事業者にロケット開発環境を提供してまいります。
*1:内閣府 宇宙基本計画、宇宙基本計画工程表(令和5年6月13日改訂) https://www8.cao.go.jp/space/plan/keikaku.html
*2:文部科学省 中小企業イノベーション創出推進事業 SBIRフェーズ3基金 https://www.mext.go.jp/mext_02308.html
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